私が出逢った生徒たち 〜契約のA君〜
不登校生や中退生がリスタートする学校で教師をしていた時のこと。
A君は卒業をあと半年に控えた高3の夏、寮から夏休みのため実家に帰省している間に自殺未遂を図りました。
理由は、多分一つではありません。中退生も来ていた学校、イジメた側とイジメられた側のどちらもタイプとして混在していました。我の強い目立つ生徒たちの横暴な言動や、それに対する一部職員の対応など、真面目で正義感の強いA君には見ていることも辛い状況だった事は事実です。職員として申し訳ない気持ちだったことを良く覚えています。A君は直接自分が何かされていたわけではないけれど、心を痛めていました。そして、将来についての葛藤も心にあっただろうと思います。そんな中での出来事。
幸い家族の方が見つけ、病院で手当てしてもらい命に別条なし。でも、夏休み明けの彼の目は、それまでとは違う悲しい微笑みをたたえていました。この事は、学校内では私だけにしか告白せず、彼の意向で私も誰にも言わず。
でも、夜になると寮で発狂して、また死にたくなるかも知れない、と。私は、二人で交換日記をすることを提案しました。
その一ページ目は、契約書。貴方が死んだら、すぐ後を追って私も死ぬ、という内容。私の署名捺印をし、彼にもするよう促しました。大人扱いされるのが好きな彼、喜んでいました。
その契約、私は本気でした。だって、彼が死んだら私もその罪悪感から生きていられない。勝手な理由ですが、だから死ぬしかない、と。
それから私たちの日記は、書き殴られた文章にもならない言葉(時には擬音とか)たちと日中のうちに私が向き合い、放課後に私の思いを書いて渡すの繰り返し。正直、死にたいほどのもがきって、文字にしても受け止めるのが息苦しかったです。それでも、誰かが彼の奮闘に伴走してあげれば、絶対卒業の日を迎えられて彼は新しい世界へ元気に羽ばたいてくれる、その確信がありました。
そして、無事に卒業式。ご両親は多くを語らず、ただ「本当にありがとうございました」と。本人はというと、清々しい顔で堂々と巣立って行きました。
その後彼は大好きな介護の大学で勉学に励みました。一度楽しくキャンパスライフを送っている彼から電話もらったことがあります。私を叱咤し励ましてくれたA君。今どうしているかな?
あの頃の私は20代で独身。今は息子を持つ40代。
今あれと同じ契約書に私、ハンコ押せるかなぁ?
きっと守るべきものが出来た今は、別の提案をするだろう。我が子もそれ以外の子どもたちも、心から愛おしい。その事を、一生懸命伝えるかもなぁ。
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